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「今後の労働者派遣制度の在り方」について思うこと。

今朝の日本経済新聞や朝日新聞が、派遣労働の見直しを議論していた厚生労働省の研究会が最終報告案をまとめたと報じています。労働者派遣法は昨年10月1日付けで改正施行されたばかりですが、改正後直ちに、今後の派遣労働のあり方についての研究会をスタートさせて議論を重ねてきたものです。派遣労働についての厚労省の問題意識の強さと意欲が伺えます。

早速、厚労省HPから報告書案を見ました。そのポイントは次のようにとらえています。
①専門26業務以外の一般業務についての派遣期間制限が当該「業務」につき最長3年であったものが、派遣先の労使合意があれば、当該「労働者」ごとに3年になったこと。
②上記①については、派遣会社と派遣労働者が有期雇用契約を締結している場合であって、派遣会社と派遣労働者との間の雇用契約が無期契約であれば、派遣期間に制限がないこと。
③専門26業務と一般業務の区分が撤廃され、派遣制度としてはシンプルでわかり易い仕組みになったこと。

さて、この報告書案をどのように評価すべきでしょうか。

1.派遣会社と派遣労働者の労働契約が無期雇用であれば、同じ人が派遣先で何年でも働くことができるという点は、本年4月に労働契約法が改正されましたが、雇用契約をできる限り無期雇用にしていこうという厚労省の意思を感じ取っています。これによって、雇用の安定を図ろうとするものです。
2.上記①の点、つまり、派遣制限期間を「業務」ごとに3年から「労働者」ごとに3年とする考え方も、派遣労働者間の公平さと雇用の安定という観点から理解できるものです。しかもその場合、派遣先の労使合意を前提としていることは、個々の企業の労使協議を重視するという意味からも評価に値すると考えます。
3.専門26業務と一般業務の区分を撤廃することについては、これまで「ファイリング」や「事務用機器操作」など、専門26業務とは名ばかりで、一般業務と実態が何も変わらないという労働状況を、労働現場の実態に合わせるという意味で評価しています。

まとめると、派遣労働者の雇用の安定と、できれば無期雇用へと誘引していこうとする当局の意欲は私は評価するものですが、もっと前(入口)の段階における大きい問題について、当局は逃げるのではなく、壁に穴をあけて欲しいなと考えます。

それは、そもそも「派遣労働」とは何かということです。いくら派遣会社と派遣労働者が無期雇用契約を締結しているからといって、また、有期契約で労働者ごとに3年を最長期間として人を代えれば何年も派遣労働者を活用できるという考え方についてです。
何年も派遣労働者を活用するという「恒常的業務」であっても派遣労働を認めるのが正しいのかどうか、恒常的業務に従事させるのであれば直接雇用すべきではないのか、などという問題についての当局の見解がサラッとし過ぎているように思います。

無期雇用へ誘引しようとする当局の意欲は評価します。しかし、無期であっても所詮、派遣は派遣。派遣先の直接雇用労働者と派遣労働者との間の賃金はじめ労働条件格差は、依然として解消されることはないと思われます。

今回の報告案について労働政策審議会で議論されることになるが、派遣労働者の雇用の安定からさらに進んで、直接雇用労働者との労働条件格差の解消にどのように踏み込むのかについても、「派遣労働者の保護」という視点から議論をしてほしいものです。

わが国の労働法の解釈と運用においては、これまで経団連など使用者側の方が恩恵を受けていると思います。今回の厚労省案についても、派遣先企業の経営事情でいつでも切れるという使用者の使い勝手の良さは依然として維持されているように思われます。少しいやらしい見方をすれば、「派遣労働にさえ我慢すれば、長く派遣で勤務できますよ。」という「派遣労働における、現在よりもましな雇用の安定」を目指しているのではと疑いたくもなります。そうではなくて、本来であれば直接雇用労働者で仕事をすべきなのに、派遣労働者を低賃金で使うというこの実態を改善することに眼を向けることが期待されているのではないでしょうか。

外国人から「日本の労働法は経営者を守るためのものですね。」と言われることのないよう、次の派遣法改正においては、ぜひとも労働者が一層保護されて恵まれることに重心をおいてほしいものです。

もう一つ、これこそが最も大事ではないかと思われるのが、「役所の縦割り思想」です。今回の報告書を見ても、「この問題は派遣云々の問題ではない」などと、自分の組織の範疇のことしか考えない。派遣問題は需給調整事業部門が担当しているが、大きくは職業安定分野の仕事。労働基準部門の管轄に入る問題には決して立ち入らない。労働基準部門も基本は労働基準法の監督であり、わが国の労働政策全般のことまで考えもしない。この縄張り意識が整合性ある労働政策の構築を阻んでいるのだと考えています。

省間の縄張りならまだしも、同じ省内においても、部局間での縦割り意識が強いのです。
このことを改善しない限り、日本の労働法制はペタペタとつぎはぎの連続で、体系性や整合性のない状態が続くものと懸念しています。
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古賀連合よ、「針のムシロ」はそんなに心地良いか!

新聞報道によると、連合は近く任期が切れる古賀会長を三選し続投させる予定だという。
連合幹部の言うその理由がふるっている。「これという失策がない」とか。呆れて開いた口が塞がらない。

私に言わせれば、何もしないから目立った失策がないだけのことである。春闘(もはや春闘という名にも値しないが)においても政治に主導され、最低賃金においてもしかり、「追出し部屋」問題についても「確認できなかった」などなど。

いったい何のための労働組合なのか。私は労働組合を不要だとは考えていない。集団的労使関係から個別労使関係まで、幅広く、労働者に寄り添って体を張って守ってほしいのである。かつては、太田 薫をはじめ力強いリーダーが存在したが、今の連合の会長は飾り物か。

現在の古賀会長は労働者の代表たる資格はない。松下政経塾出身の民主党政治家はこの国を滅ぼしそうになったが、松下出身の古賀もしかりだ。口先だけの人間は必要ない。

さっさと身を引き、新時代の労使協議機関のリーダーとしても機能しうるニューリーダーに任せるべきである。

「ブラック企業」潰しに労働局は本気で汗をかいてほしい。

8日、厚生労働省が『若者の「使い捨て」が疑われる企業等』が社会的に問題になっている現状に鑑みて、その具体的対策を発表した。俗にいう「ブラック企業」対策である。
次の三点を取組の柱にするという。
1.長時間労働の抑制に向けて、集中的な取組を行います。
2.相談にしっかり対応します。
3.職場のパワーハラスメントの予防・解決を推進します。

報道発表資料はとりあえずお決まりの体裁をつくっただけとの印象を受けた。
別紙リーフレットのトップのイラストの労働者が悩んでいる3項目の方が、労働者の悩みの実態を表現している。
①毎日がんばっているのに、家に帰り着くのはいつも深夜、ひどい時には家に帰れないことも・・・
②毎日遅くまで残業をしているが残業手当がつかない
③休みたくても「年次有給休暇はない」と言われた
この三項目は確かに、理不尽な働き方を強いられている労働者にとってWorst3である。

とくに中小企業においては、上記三項目は常態になっている企業が少なくない。
大企業ともなれば、時間外労働の労使協定(36協定)を締結・届出を行っているし、残業手当(サービス残業はあるにせよ)も一応支払っている。また、年次有給休暇についても、取得のしやすさには差があるが制度的には管理されている。

つまり大企業は一部には法の潜脱が認められるものの、一応合法的な手続きは取られている。しかし、中小企業においては、合法的な経営体制を整える資金的余裕がないとか、あるいは、労働法制を知らないというケースがきわめて多い。この二重構造が、「法と実態との乖離」という日本の労働社会の最大の問題である。

これら中小企業における労働実態をいかにして労働法が求める姿に近づけるのか、これこそが労働局という監督行政機関が体を張って取り組むべき問題と考える。

特定日の電話相談とか、そんなパフォーマンスではなく、日常の監督業務の中で、「労働者に寄り添う」ことである。以前にもこのブログで記したが、「年休がないと言われた」という電話はいまだに結構コンスタントに労働局や労基署に入ってくる。しかし、その際の監督官の対応は言葉は丁寧であるが、極めて不親切と言わざるを得ない。やれ、年休を申し出た証拠書類はあるかなどなど、確かに行政の手続上はその通りかもしれないが、「そんな会社はケシカラン」と労働者を救ってやろうという意欲を感じない。年次有給休暇は生理休暇とは少し意義や重みが異なる。労基法の条文を改定してでも、EUのように使用者に年休カレンダーを作成する義務まで課すべきと思う。

労働局(労基署)の監督官の人員が少ないから手が回らないというのも現実かもしれない。
しかし、パソコン画面にかじりついていて、飛んでくる火の粉をいかにして振り払うかということにひたすら努めている監督官も決して少なくない。

個々の監督官は優秀な人材であるが、行政としての仕事の仕組みに問題があるのだろう。
世間で騒がしい問題が起これば、「とりあえずの形だけ」というパフォーマンスでその場しのぎをするのではなく、問題をつぶす「仕組みやシステム」を考えてほしい。本省をみて本省の指示の範囲でしか動かない行政の現状を変えるべきではないだろうか。

労働局の窓口に訪れた知的なジェントルマンだったアメリカ人が帰り際に言った言葉がいまだに忘れられない。「日本の労働法は労働者を守るためのものではなく、経営者を守るためのものなのですね」。

日本の労働法は世界の中で、決して見劣りするものではないと多くの学者は言っておられる。私は、その労働法の解釈と行政官による運用の在り方に問題があるとみている。

悪徳使用者を叩く意欲も湧いてこない監督官諸氏には、夏季休暇中に、映画「The Lone Ranger」を見ることをお勧めしたい。

久しぶりの濱口桂一郎先生の新刊書『若者と労働』。

前々から予告されていたが、濱口桂一郎先生の新刊書がまもなく刊行される。
題して、『若者と労働』。さっそく、Amazonへ予約発注した。

まえがきや目次をみると、先生の前著『新しい労働社会』及び『日本の雇用と労働法』を下敷きに、昨今のブラック企業問題や限定正社員についての先生の見解が展開されている。先生が大学で講義された内容やその他の講演会におけるお話を一冊にまとめた、いわばテキスト的な著書といえる。

法的あるいは論理的に考えもせず、損得の感情と良き時代への懐古趣味に浸っている人々には、ぜひとも読んでいただきたいものである。日本の雇用問題については、先生の論理こそ正論であり、かつ、王道である。一部(もう少し多いか)の人々が反論するのであれば、濱口先生の歴史的かつ国際的なパスペクティブに立った論理に対して、論理的に反論してほしいものだ。

これから社会へ出ていく学生さんにはぜひ読んでいただきたいし、すでに社会人となっている若い方々もこの本から「企業と個人」のあるべき関係について学んでいただきたいと思います。必読のテキストです。
プロフィール

畠山 奉勝

Author:畠山 奉勝
1944年生まれ。電機メーカー定年後、大阪労働局監督課で指導員を担当。全国に先駆けて大学生・高校生などを対象にした若者労働法教育のレールを敷く。

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